第4章 出願後の手続

特許庁に出願したあとは、その発明が特許として保護されるに相応しいかどうかの審査官による審査がされます。そして、その審査をパスしてようやく特許を受けることができます。その際、特許庁に対する出願から権利取得までの手続は、口頭ではなく基本的に書面主義に基づいて行われます。
 ここでは、審査官から拒絶理由が通知(特許にできないと通知)された
場合にどのように対処していけばよいのかを中心に、出願審査請求書、意見書、補正書などの手続に必要な書類の書き方と査定後の手続について学びます。


出願から特許取得までの流れ

 特許は、出願しただけでは権利を取得することができません。出願をすると、方式審査がなされ、さらに審査請求をすると実体審査が
行われます。特許の要件を満たし審査をパスすれば、特許査定がなされ、原簿に登録されて特許権が成立します。特許の要件を満たしていないものは拒絶されます。



早期審査制度

 早期審査制度は昭和
61年より運用により行われている制度であり、特許庁では審査請求がされている特許出願のうち、@出願人自らがその発明を事業化している場合などの「実施関連出願」とA外国特許庁へも出願している場合などの「外国関連出願」については、早期審査対象条件として通常の出願に優先して速やかに審査手続を進めています。
 この早期審査制度を受けるためには、実施関連出願については出願人又は実施許諾者がその出願の発明を実施(2年以内の実施計画を
含む)していることを証明する「実施状況説明」を、外国関連出願についてはその発明が記載されている外国公報の公報番号を記載するなどして外国特許庁等への出願の事実を証明する「日本国特許庁以外の特許庁への出願の表示」を、それぞれ示した「早期審査に関する事情説明書」の提出が必要のなります。


優先審査制度

 優先審査制度は特許法第48条の6に規定されている制度であり、出願公開後に出願人でない第三者によってその出願の発明が事業化されている場合に、特許庁では、その出願を優先審査対象案件として通常の出願に優先して速やかに審査手続を進めています。
 この優先審査の対象となる案件は、第三者の実施状況や出願人と第三者の折衡等の経過について記載した「事情説明書」が提出された
もののうち、審査請求と出願公開がされていて、第三者がその出願の発明を事業化している出願であって、優先審査をするのが適当であると判断されたものが対象として選定されます。
 なお、事情説明書の提出は、特許査定前の出願にかかる発明を第三者に実施されている出願人だけではなく、出願公開された発明を
実施中の第三者が出願人から警告を受け、その出願が拒絶査定になるか早く確定してほしい場合にも提出できます。


国内優先権制度


 パリ条約の優先権を利用して出願をすると、基本発明の新規性を否定されることなくその後に発明した改良技術を一つの出願に
まとめることができます。この利点を日本国内で出願した案件についても認めるようにしたのが国内優先権制度です。国内優先権の主張は、実施例を充実させたり、権利範囲を拡張したりする上で有効な手段となります。
 例えば、ある基本発明aについて出願Aを行い、その出願後にその改良発明a
を完成した場合に、すでに出願している基本発明aについての出願Aをもとに国内優先権を主張して基本発明aと改良発明aとを含む新しい出願Aを出願することができます。ここで、出願Aと出願Aの狭間の時期に、基本発明aが第三者に公表されても国内優先権を主張した出願Aの中の基本発明aの新規性は否定されません。また、この狭間の時期に改良発明aが公表された場合、出願A’から改良発明aにかかわる部分を削除すれば改良発明aについての新規性の問題は問われなくなります。
 なお、国内優先権主張をして出願A
をした場合には、そのもとになった出願Aは、その出願の日から1年3月を経過したときに取り下げられたものとみなします。




方式審査

 方式審査とは、願書や明細書などの出願書類が特許法などで定める手続的及び形式的な要件を備えているかどうかを審査することをいい、
特許すべきかどうかの審査である実体審査と区別されます。なお、パソコン出願を利用する場合には、パソコン出願ソフトによって自動チェックがされるので、料金未納などの一部の例外を除いて問題は生じないでしょう。


補正命令

 方式審査で出願書類に不備が発見されると、特許庁長官から手続を補正するよう命じられますから、手続補正指令所で指定
 された期間内に補正書を提出して不備を訂正します。期間内に補正をしないと特許出願が却下処分にされて初めから特許庁に出願されなかったものとみなされてしまいます。

弁明書の提出

 願書に明細書が添付されていないとか、提出された書類が特許出願か実用新案登録出願かわからないなど、出願に重大な欠点がある場合には、手続の補正が命じられないで、却下処分がなされてしまいます。ただし、この却下の前に弁明書提出の機会が与えられます。
 
なお、この却下処分に不服があれば、その処分があったことを知った日から60日以内に行政不服審査法に基づく異議の申立てをすることができます。





明細書や図面の補正

 出願した後で、実際に自分の発明を製品化してみると、出願時の特許請求の範囲の表現では不十分であると気づく場合があります。
また、実体審査の過程で、特許請求の範囲があいまいであったり、明細書に誤記があると指摘される場合があります。このような場合には手続補正により明細書や図面を補正します。



補正の制限について

 明細書又は図面は、出願当初から完全であることが望ましいのですが、わが国では最初に出願したものに特許を与える
先願主義をとっているため、特許出願を急ぐあまり記載漏れや不明瞭な点が少なくありません。この場合に補正を認めないのは出願人に酷であり、また発明保護の趣旨にも反します。
 一方、出願時に着想していなかった発明を後から追加したり、発明の権利範囲を頻繁に変更する補正を自由に認めると、
補正された内容は特許出願の日に遡って効力が生じますから、先願主義に反しますし、審査の遅延も招くことになります。そこで、補正できる時期及び内容について一定の制限が設けられています。



手続補正書の書き方

 手続の補正には、手続上の規定により特許庁からの命令で補正する「命令補正」と、自分から明細書や図面などを補正しよう
として行う「自発補正」の2種類がありますが、どちらの場合も補正書の書き方は同じです。なお、別書類の補正を1つの補正書で補正することはできないので注意が必要です。
【事件の表示】
 特許庁から出願番号が通知されている場合には、【出願番号】の欄を設けて出願番号を記載します。出願番号が通知されて
いない場合には、【出願日】と【整理番号】の欄を設けて補正の対象となる出願がわかるように表示します。
【補正をする者】
 この欄にある【住所又は居所】【氏名又は名称】などの欄は願書のとおりに記載します。なお、住所や氏名に変更があった
場合には、別途「変更届」の提出が必要ですから、変更届が提出されていない場合は願書のとおりに記載します。
【発送番号】
 手続補正指令書や拒絶理由通知などに応答して補正する場合は、対応する書類に記載された発送番号を記載します。

【補正により増加する請求項の数】
 特許請求の範囲にある請求項の数が増加する場合のみ記載します。





出願公開と補償金請求

 出願公開とは、出願日から1年6ヶ月経過後に、特許出願の明細書、図面等を掲載した公開特許公報を発行し、出願内容を一般社会に
公表することをいいます。出願公開前に出願の取下げなどがあったものを除き、原則としてすべての特許出願が出願公開されます。


出願公開制度の導入

 昔は、全ての出願を審査した後に出願の内容を一般に公表していたのですが、出願件数の増大と技術内容の高度化により、
特許審査の処理に時間がかかるようになりました。このため、出願内容の公表が遅れがちになり、その間、出願された内容がなかなかわからないために、同じ技術を重複して研究したり、重複して出願がされるという弊害が生じました。そこで、こうした弊害を防止するために、昭和45年度より導入されたのが出願公開制度です。


公開特許公報

 公開特許公報はフロントページ(第1ページ)に出願人名等の書誌的事項と発明の要約と代表図等を収録し、これに明細書
全文及び図面を添付して発行されています。ただし、特許庁長官が反社会的であると認める部分や広告宣伝記事などは掲載されません。この公開特許公報は、工業所有権総合情報館、各通産局、知的所有権センター、発明協会の各支部などで自由に閲覧できます。

補償金請求権

 出願公開されると、発明の内容が一般に公表されますので、公衆の利益にはつながりますが、出願人にとっては他人に
模倣される危険が高まります。そこで、出願公開後から特許権の設定登録までの期間に出願にかかる発明を業として実施した者に対し、書面により警告をすることを条件として、特許になった後に、前記期間の実施に対する実施料相当額の支払いを請求できる「補償金請求権」という権利を出願人に認めています。





出願審査請求

 特許出願した発明が特許になるかどうかは特許庁の審査官による実体審査を経て判断が下されます。この実体審査を受けるためには、
特許法第48条の3に定められる期間内に「出願審査請求書」を提出しなければなりません。この期間内に出願審査請求がなされなかった出願は、取り下げされたものとみなされるので、注意が必要です。


出願審査請求の必要性

 審査請求手数料は、審査の対象となる請求項の数によって変動しますが、少なくとも86,300円は必要になります。
したがって、出願と同時に審査請求をするのではなく、先願の技術内容が公開公報に掲載されるのを待って特許性を確認し、特許を取得して事業化するだけの価値があるか、もう一度よく確かめてから審査請求をするのが経済的です。



出願審査請求書の書き方


 出願審査請求の手数料は、1出願につき84,300円に1請求項につき2,000円を加えた額です。これを「特許印紙」
で納付する場合は、請求書の左上余白部分に特許印紙を貼り、その下にその額を括弧で囲み記載します。
【書類名】

 書類の名称は「出願審査請求書」となりますが、出願人本人ではないものが出願審査請求をする場合は、
「出願審査請求書(他人)」と記載します。
【出願番号】
 
出願番号は出願後に特許庁より通知されますから、これを記載します。
【請求項の数】

 出願審査請求の時点での「請求項の数」を記載します。





実体審査 

 方式審査をクリアーした出願で、出願審査請求がなされた出願は、審査官によって特許になるかどうかの実質的な審査が行われます。



拒絶理由の通知

 実体審査の段階で審査官が審査をした結果、第1章に示した拒絶理由に該当するとの心証を得た場合は、即座に拒絶の査定を
するのではなく、あらかじめその旨を出願人に通知することとしています。これを拒絶理由の通知といいます。
 通知される拒絶理由の大半は、先行技術が記載されている文献が引用例として提示され、発明として新しくない、あるいは
簡単にできる発明であるとする「新規性・進歩性の欠如」に関するものか、明細書の表現が明瞭でないとする「記載不備」にかんするものです。
 拒絶理由が通知されると、指定期間内(通常60日)に意見を述べる機会が与えられますから、あきらめずに意見書と
必要ならば補正書を提出して対処します。この対処を怠るとほとんどの場合、拒絶の査定がなされてしまいますから注意が必要です。


意見書の提出 

 意見書とは、出願人の意見を述べ、審査官の拒絶理由に対して反論するための書類をいいます。

 例えば、通知された拒絶理由が新規性・進歩性の欠如を理由としている場合は、主としてその特許出願の前に公開された
特許公報類が引用されていますから、これら刊行物を取り寄せて、自分の発明がどのような点で引用発明と異なっているのかについて論理的かつ具体的に述べます。また、従来技術の組合せであると指摘された場合には、その組合せを着想することが専門家にとって必然性がなく簡単には思いつかないこと、自分の発明によって今までにない優れた作用効果が得られたことなどを反論として主張します。
 なお、特許請求の範囲などの明細書を補正した場合には、出願当初の明細書の何れの記載を根拠に補正したのか補正の根拠を
意見書で明らかにするとともに、補正後の特許請求の範囲の発明に基いて意見を述べます。


手続きの補正

 拒絶理由の通知を受けた場合に、その拒絶理由を解消するために、明細書や図面を補正する必要が生じる場合があります。
例えば、特許請求の範囲が広すぎる場合には、拒絶理由に引用された文献に記載されている発明を特許請求の範囲から除していきます。また、明細書の記載に誤記など不備があると指摘されたら、これを訂正する補正をします。
 なお、新規事項を追加する補正は認められないので、出願当初の明細書又は図面に記載された範囲から逸脱しないように
補正を行います。また、最初の拒絶理由を回避できる補正をしても、別の周知技術があれば、再度拒絶理由の通知が発せられます。この第2回目以降の拒絶理由を最後の拒絶理由といい、これが発せられると、特許請求の範囲の補正は、すでに行われた審査の結果を有効に活用できる範囲に収めなければならないという制限がつきます。




最終処分

 実体審査は審査官の査定によって終了します。この最終処分となる査定は、特許権を付与するかどうかの決定のことをいい、特許権が
付与される特許査定と、特許権が付与されない拒絶査定の2種類があります。


特許査定

 審査官が審査をした結果、拒絶の理由を発見できなかった場合、あるいは拒絶理由を発見したがその通知に対して出願人側から
意見書ないし補正書が提出されて拒絶の理由が解消したと認められる場合には、審査官はその特許出願について特許をすべき旨の査定をします。これを特許査定といいます。
 特許査定の謄本が特許出願人に送達された日から30日以内に特許料が納付されると、特許権の設定登録がなされ、特許公報に
掲載されます。


拒絶査定

 拒絶査定とは、拒絶の理由に該当するから特許すべきではないとする審査官の最終処分をいいます。

 審査官は、拒絶理由に対する出願人の意見書ないし補正書によっては、なお先に示した拒絶理由が解消していないと認めるとき、
あるいは出願人側から意見書等が提出されない場合であって、なお先の拒絶理由を撤回する必要がないと認めるときは、拒絶査定を行い、審査を終了させます
 特許出願人はこの拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定謄本の送達の日から30日以内に拒絶査定不服の審判を請求する
ことができます。この期間内に審判の請求をしないと拒絶査定は確定し、その出願については以後救済する手段がなくなります。
 なお、審判請求の変わりに、出願の分割や特許ではなく実用新案又は意匠に出願を更新して権利化を試みる方法もあります。
この場合の手続きも拒絶査定謄本の送達から30日以内に行う必要があります。

分割出願

 分割出願とは、2以上の発明を有する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることをいいます。
 
この分割出願は、出願人が特許を管理するのに分割したほうが有利と考えた場合、発明の詳細な説明の中にだけ記載した発明を抜き出して権利にしたいと思う場合、拒絶理由を回避したい場合などに行われます。
 分割出願はいつでもできるのではなく、願書に添付した明細書又は図面について補正ができる期間内に限って認められます。
 分割出願とした新たな出願は、もとの特許出願のときに出願したものとみなされます。そして、特許の要件でもある「新しさ」
「容易に考えられないこと」「すでに他人が出願してないこと」などは、もとの特許出願の日を基準として判断されます。



変更出願

 変更出願とは、出願の日時をそのままにしてもとの出願形式を他の出願形式に変更することをいいます。出願の変更は、特許と
実用新案登録出願相互間のみならずこれらと意匠登録出願相互間でも認められます。
 
出願の変更を認めるのは、出願人が特許出願をしたが実用新案登録出願で足りると判断した場合などに、出願形式の選択について出願人を保護するためです。変更の前と変更の後の出願の内容が同じであるなど、変更の要件をみたしたときは、新たな出願はもとの出願のときになされたものとみなされ、その扱いは分割出願と同じです。
 出願の変更があったときは、もとの出願は取り下げられたものとみなされます。この点が分割出願と異なります。重複して保護
する必要はないからです。
 なお、変更ができる時期は以下の通りです。

 変更の出願はすべて新出願として扱われますので、願書、明細書、図面、要約書その他の書類は原則としてすべて新たに必要
となります。

実用新案登録出願→特許出願

実用新案登録出願が特許庁に係属している限り、いつでも可。

意匠登録出願→特許出願   原出願の最初の拒絶査定謄本送達の日から30日以内、または原出願の日から7年以内。
特許出願→実用新案登録出願 原出願の最初の拒絶査定謄本送達の日から30日以内、または原出願の日から5年6月以内
特許出願→意匠登録出願 原出願の最初の拒絶査定謄本送達の日から30日以内。





特許権の発生

 特許権は、審査官の特許査定がなされただけでは権利が発生しません。所定の特許料が納付された後、特許庁長官による特許登録原簿
への特許権設定の登録がなされて、はじめて発生します。なお、特許権の存続期間は出願日から20年で満了します。


特許料の納付

 特許料の納付は、特許査定の謄本が特許出願人に送達された日から30日以内に、初回に限り第1年から第3年分を一括して
納付します。特許料の納付があったときは特許権の設定登録がなされますが、この納付期間内に特許料の納付がなされないと特許出願の却下処分がなされてしまうので注意が必要です
 なお、この期間内に納付することができないときには、30日以内に限り、請求することによって納付期間の延長をすること
ができます。また、第1年から第3年分の特許料に限って、納付すべきものが発明者又はその相続人であって、貧しくて払えない場合には、この額を減額したり、免除したり、2年間猶予してもらえる場合があります。
 第4年以降の特許料については、前年までに翌1年分だけを納付することも、何年分かをまとめて納付することもできます。



特許異議の申立てと無効審判

 審査官の特許査定に不服のあるものは、特許権の発生後に特許異議の申立てや無効審判の請求を行うことができます。審査の
段階で見つからなかった新規性を否定する文献が見つからなかった場合などは、特許が取り消されたり、無効になったりします。こうして特許処分の見直しが図られ、特許の信頼性が高められます